【略語付】臨床で差がつく上肢の筋肉の覚え方【学生・新人、指導者にもおすすめ】

この記事では、上肢筋肉の覚え方と略語を紹介します。なにかとややこしくて数も多い上肢の筋肉。ある点を意識すると、覚えることも簡単ですし、臨床においても結果に差が出るようになってきます。「知っている」ではなく、「理解している」このために必要な覚え方を紹介します。

ポイント①:筋肉の名前は起始・停止・作用でできている

ポイント②:筋肉は平面ではなく深さ(重なり)を考える

目次

上腕の筋肉

(烏口腕筋):coracobrachialis

上腕の筋肉に入れるか悩みましたが入れておきます。略語は特になく、そのまま英語読みで発音します。

烏口突起(coracoid process)から上腕に付着する筋肉(brachialis)。上腕骨はhumerusですが、上腕筋群はbrachialis

上腕二頭筋:(バイセプス:biceps brachii)

二頭(biceps)と上腕の筋(brachiallis)で「バイセプス」と略称されます。

短頭は烏口突起から烏口腕筋との共同腱として起始。

長頭は肩甲骨の関節上結節から起始。関節上結節は肩関節の関節包内にあり、長頭の一部は関節唇と融合しています。長頭腱は上腕骨頭をまたぎ、結節間溝を下行します。

臨床でのポイント上腕骨頭を関節窩に固定する作用があり、棘上筋などと同じ、インナーマッスルとも呼べるでしょう。

上腕筋:brachialis

上腕筋は英語そのままです。臨床ではわざわざ英語で言う人は少なく「じょうわんきん」と呼ばれます。

上腕二頭筋の深層に位置する筋肉で、上腕骨から起始し、尺骨の尺骨粗面に停止。つまり純粋な肘の屈曲(腕尺関節の屈曲)には上腕筋の働きが欠かせません。

臨床でのポイント:肘関節包と接点を持っているため、肘の屈曲制限、伸展制限ともに上腕筋の拘縮改善は必須

上腕三頭筋:(トライセプス:triceps brachii)

三頭(triceps)と上腕の筋(brachiallis)で「トライセプスやトリセプス」と呼ばれます。

肘関節伸展の主動作筋。長頭は肩甲骨の関節下結節から起始し、橈骨神経溝の上下で外側頭と内側頭が起始。

臨床でのポイント:長頭は肩関節を横切っているため、肩関節の伸展や内転にも関与。また、肩関節包とも接点を持ち、上肢挙上時に肩関節の関節包の下部を支える役割もある。

前腕の筋肉(前面:屈筋群)

前腕の筋肉は前面、後面に分けて解説します。ここでの前面・後面とは解剖学的基本肢位をもとにしています。また順番にもポイントがあり、筋肉の走行の順に沿っています!この順番で覚えると頭の中や自分の腕でイメージしやすいですよ。

前腕筋は前腕筋膜に包まれており、前腕筋膜は手関節の近くで屈筋支帯と伸筋支帯を作ります。

前面の筋は浅層5つ、深層3つに分けられ、浅層筋は主に上腕骨内側上顆から起始しています。

前腕前面筋浅層

円回内筋:(PT:pronator teres)

実はあまり知られていませんが、円回内筋は浅頭と深頭からなり、その間を正中神経がとおります。

臨床ポイント:正中神経がとおるということは、肘以遠での正中神経領域の症状が出た場合、絞扼部位のひとつとして考察できますね。

橈側手根屈筋:(FCR:flexor carpi radialis)

屈筋(Flexor)手根(Carpi)橈側(radialis)で略語はFCR。

上腕骨内側上顆から起始し、第2.3中手骨底掌側に停止。手関節部分ではFCR腱が橈骨動脈の隣を走行しています。

臨床ポイント:橈骨遠位端骨折の手術療法では、FCR腱の近くを切開することが多い。手術後は腱滑走の低下が予測されるため、医師の指示のもと早期の滑走訓練が望ましい。

長掌筋:(PL:palmar longus)

掌(palmar)長(longus)で略語はPL。

母指と小指を対立させ、手関節を掌屈させると、手関節の中央部に浮き出るのが長掌筋腱。人によっては欠如していることも。腱は薄く長く、屈筋支帯の上をとおっている。

臨床ポイント:手関節のすぐ近位でPL腱の下を正中神経が走行しており、この部位の拘縮や、腫脹などで正中神経の絞扼症状が出現する可能性が考えられる。また、PL腱は腱移行術で移行腱として使われることも多い。MLBの大谷翔平選手が受けたことで有名なトミージョン手術においても、肘の内側側副靭帯の再建にPL腱が使われることもあるそうです。

浅指屈筋:(FDS:flexor digitorum superficialis)

屈筋(Flexor)指(Digitorum)浅(Superficialis)で略語はFDS。

前腕浅層筋の中で最も大きい筋肉。上腕尺骨頭と橈骨頭の二頭筋であり、二頭の間を尺骨動脈と正中神経が通過している。筋の深さはほかの浅層筋よりも深い位置にあり、浅層筋と深層筋の中間に位置する。PIP関節を屈曲させる作用がある。

臨床ポイント:上腕尺骨頭は一部、肘内側側副靭帯からも起始しており、浅指屈筋の強化はスポーツ(特に野球)における肘内側側副靭帯の怪我予防につながる可能性がある。

尺側手根屈筋:(FCU:flexor carpi ulnaris)

屈筋(Flexor)手根(Carpi)尺側(ulnaris)で略語はFCU。

尺側手根屈筋も二頭筋で、起始は上腕頭(内側上顆)と尺骨頭(肘頭、尺骨後縁)。この二頭はアーチ状の腱で結合され、その下を尺骨神経が通過している。停止は豆状骨と第5中手骨底。

臨床ポイント:起始付近では尺骨神経の絞扼の原因となる可能性がある。手関節部では、手のさまざまな運動において、豆状骨を固定することで手の安定を保っている。

前腕前面筋深層

深指屈筋:(FDP:flexor digitorum profundus)

屈筋(Flexor)指(Digitorum)深(Profundus)で略語はFDP。

尺骨・前腕骨間膜から起始し末節骨底に停止。DIP関節の屈曲を行う唯一の筋肉。第2.3指のFDPは正中神経、第4.5指のFDPは尺骨神経と二重神経支配となっている。

臨床ポイント:前腕の回外制限の要因のひとつに骨間膜の拘縮がある。これを改善させるには、FDPが骨間膜から起始していることを利用し、FDPに抵抗運動を起こすことで、起始部である骨間膜の柔軟性改善が期待できる。

長母指屈筋:(FPL:flexor pollicis longus)

屈筋(Flexor)母指(Pollicis)長(Longus)で略語はFPL。

橈骨、骨間膜から起始し、停止は母指末節骨底。

臨床ポイント:FDP同様に骨間膜拘縮に対するアプローチに応用できる。橈骨遠位端骨折では手関節部で深部を走行しているため、術後癒着を生じやすく早期の滑走訓練が求められる。橈骨遠位端骨折のプレート固定例では、まれにAPLがプレートとの摩耗により断裂してしまうケースがあるため、プレートの位置の把握とAPL収縮練習時の手関節角度に留意したい。

方形回内筋:(PQ:pronator quadratus)

回内筋(pronator)方形(quadratus)でPQ。

扁平で四角形をした筋肉で、起始は尺骨遠位1/4。停止は橈骨遠位1/4。前腕回内の主動作筋である。

臨床ポイント:橈骨遠位端骨折の手術例ではPQを切開するため、PQの処理について執刀医に確認を行い、術後の運動療法に役立てたい。ここで確認したいのは、どう切開したか、縫合の有無やテンション、縫合時の前腕の肢位などである。術記録に詳細がない場合は直接確認してみましょう。縫合していない場合、回内運動は円回内筋などほかの筋肉の運動を促す必要があります。

前腕の筋肉(後面:伸筋群)

前腕後面の筋肉は7個の浅層筋と5個の深層筋に分けられ、浅層は上腕骨外側上顆から共同腱として起始するものも多い。

前腕後面筋浅層

腕橈骨筋:(BR:brachioradialis)

前腕中間位で肘を屈曲した際に浮き出る筋肉。前腕外側の最も表層にあり肘窩の外側縁を形成しています。

起始は上腕骨外側上顆の上方、停止は橈骨形状突起の上方。前腕回内外中間位で効率的に肘の屈曲に作用します。上腕二頭筋や上腕筋と同じで肘関節の屈筋ですが、支配神経は橈骨神経となります。

長橈側手根伸筋:(ECRL:extensor carpi radialis longus)

伸筋(Extensor)手根(Carpi)橈側(Radialis)長(Longus)で略語はECRL。

上腕骨から起始し、第2中手骨底背側に停止。短橈側手根伸筋とともに手関節背屈に作用します。

臨床ポイント:橈骨神経高位麻痺では、ECRLの筋力低下が起こり、下垂手(Drop hand)が生じます。

短橈側手根伸筋:(ECRB:extensor carpi radialis brevis)

伸筋(Extensor)手根(Carpi)橈側(Radialis)短(Bongus)で略語はECRB。

上腕骨外側上顆や肘外側側副靭帯から起始し、第3中手骨底背側に停止。長橈側手根伸筋とともに手関節を背屈します。

臨床ポイント:橈骨神経高位麻痺では、ECRBの筋力低下が起こり、下垂手(Drop hand)が生じます。また肘外側側副靭帯から起始していることに着目すると、ECRBの筋力強化や柔軟性の維持・改善は肘外側のスポーツ障害の予防につながることが考えられます。

総指伸筋:(ED:extensor digitorum)

伸筋(Extensor)指(digitorum)で略語はED。

上腕骨外側上顆から起始し、第2.3.4.5指末節骨底に停止。厳密には指の伸展機構を含みますが、複雑になるためここでは省略します。MP関節の伸展に作用します。

臨床ポイント:橈骨神経低位麻痺では橈骨神経深枝(後骨間神経)が障害され、下垂指(Drop finger)が生じます。下垂指とは、手関節の背屈は可能で指MP関節の伸展ができなくなる状態です。PIP関節、DIP関節は手内筋の作用により伸展が可能です。また後骨間神経は運動枝なので基本的には運動障害のみの症状となります。

小指伸筋:(EDM:extensor digiti minimi)

伸筋(Extensor)指(digitorum)小(minimi)で略語はEDM。EDQと表記されることもあります。

尺側手根伸筋:(ECU:extensor carpi ulnaris)

伸筋(Extensor)手根(Carpi)尺側(ulnaris)で略語はECU。

肘筋:(:anconeus)

上腕三頭筋内側頭から一部が独立した筋肉で上腕後面に分類されることもあります。

前腕後面筋深層

回外筋:(:supinator)

浅部と深部で構成される回外筋は、その間を橈骨神経が走行しています。起始は上腕骨外側上顆、外側側副靭帯、輪状靭帯、尺骨回外筋稜。肘関節の角度にかかわらず前腕回外に作用します。

臨床ポイント:指伸筋でも触れましたが、回外筋を通過する橈骨神経が絞扼を受けると橈骨神経低位麻痺の症状をきたす可能性があります。(回外筋症候群)

長母指外転筋:(APL:abductor pollicis longus)

外転筋(Abductor)母指(Pollicis)長(Longus)で略語はAPL。

尺骨や骨間膜から起始し、停止部は腱が2つに分かれ、大菱形骨と第1中手骨底につきます。母指橈側外転に作用します。

臨床ポイント橈側外転は長母指外転筋。掌側外転は短母指外転筋。

短母指伸筋:(EPB:extensor pollicis brevis)

伸筋(Extensor)母指(Pollicis)短(Brevis)で略語はEPB。

橈骨や骨間膜から起始し、母指基節骨底背側に停止します。母指MP関節の伸展に作用します。

長母指伸筋:(EPL:extensor pollicis longus)

伸筋(Extensor)母指(Pollicis)長(Longus)で略語はEPL。

尺骨体と骨間膜から起始し、母指末節骨底に停止します。母指IP関節伸展に作用する唯一の筋肉です。

臨床ポイント:橈骨遠位背側ではリスター結節が存在し、その尺側をEPL腱が走行しています。リスター結節は滑車の役割でEPLの張力を伝えています。橈骨遠位端骨折後、リスター結節付近に骨棘が形成されてしまうことがあり、摩耗によりEPL腱の断裂をきたすケースがあります。リハビリ時に「今後、急に親指が伸びなくなることが起こる可能性があります。その際はなるべく早く受診するようにしてください」などと一声かけておくのもいいかもしれないですね。

(固有)示指伸筋:(EIP:extensor indicis proprius)

伸筋(Extensor)示指(Indicis)固有(proprius)で略語はEIP。

尺骨と骨間膜から起始し、第2指の指背腱膜へと向かいます。

臨床ポイント:腱損傷例の移行腱として使われることがあります。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

この記事が気に入ったら友達にシェアしよう

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次